Symposium Cézanne aujourd’hui vu par l’exposition Cézanne – Paris-Provence

 

セザンヌ研究の現在研究史から見る今日のセザンヌ像―Paul Cézanne(1839-1906)

ポール・セザンヌ協会会員/京都工芸繊維大学准教授 永井隆則

1890年(51歳)頃のセザンヌ(Cézanne(Catalogue d’Exposition),Paris , Galeries nationales du Grand Palais, 25 septembre 1995-7 janvier 1996;London, Tate Gallery, 8 février-28 avril 1996;Philadelphia, Philadelphia Museum of Art, 26 mai-18 août 1996, Édition de la Réunion des Musées Nationaux, Paris, 1995, p.550)Photo. anonym.

 

はじめに

この度の基調講演で、私に与えられたテーマは壮大です。世界に36名のポール・セザンヌ協会(La société de Paul Cézanne)会員がいますが、誰一人として、このテーマに十分応える事はできないでしょう。1936年のLionello Venturiによる、セザンヌ油彩画のカタログ・レゾネ出版をもって、批評言説から脱却して、セザンヌに関する美術史研究が本格的に始まったと仮定して、現在まで約80年が経過していますが、この間に発表されたセザンヌ論は膨大であり、セザンヌ研究の歴史と現在の動向を把握する事は極めて困難です。

それでも、敢えて、このテーマに応えるとすれば、どのような方法によって可能でしょうか?

さしあたって、以下の5つの項目を調査する事で可能ではないかと思います。

・I.セザンヌ・シンポジウムから見た研究の現在

・II.セザンヌ研究書(論文)から見た研究の現在

・III.雑誌セザンヌ特集号から見た日本における研究状況

・IV.展覧会史から見た研究の現在

・V.修士、博士論文から見た研究の現在(UMI Dissertation Services他)

IV.については、これから、国立新美術館の工藤さんが発表されますので、必要に応じて言及するのみに留め、お任せしたいと思います。

V.に関しては、アメリカやカナダには、Ph.Dを複写・販売するシステムがあり、これを検索するなどして、調査可能と思われますが、この度の講演では準備不足で割愛いたします。ただし、本講演の内容に関連する論文に限って適宜、紹介していきます。

以上、I~IIIの順に従って、セザンヌ研究の歴史と現在を紹介し、分析していきます。

 

I.セザンヌ・シンポジウムから見た、セザンヌ研究の現在

私の知る限り、世界で初めて、セザンヌに関するシンポジウムが開催されたのは、1982年の事です。それ以来、今日に至るまで、シンポジウムの傾向を分析しますと、結論から述べれば、セザンヌ研究は、《思弁(美学、哲学)的セザンヌ論から<受容>、<場所>、<社会>、<競作>といった美術史学の問題へと移行してきた》と纏める事が出来ます。

これから、順をおって紹介していきます。

①1982年6月21日~25日、エクス=アン=プロヴァンス、グラネ美術館で開催されたシンポジウム。

これは、1982年6月12日から8月31日まで、エクス=アン=プロヴァンス、グラネ美術館で開催された「セザンヌ」展を記念して企画されたフランス人によるシンポジウムで、Cézanne ou la peinture en jeu, Criterion, Limoges, 1982として論文集が刊行されました。参加者は以下のメンバーです:

Denis Coutagne, Hubert Damisch, Gilbert Lascault, Louis Marin, Michel Hoog, Jean Arrouye, Maire José Baudinet, Liliane Brion-Guerry, Michel Costantinni, Christiane Rabant-Lacote, Michel Guerrin, Marie Jeanne Coutagne-Wathier, Bruno Ely.

Michel Hoog 、Denis Coutagne、Bruno Elyといった美術館学芸員やプロヴァンス大学教授で美術史家のJean Arrouyeが参加していますが、社会科学高等研究院(École des hautes études en sciences sociales)教授で哲学者のHubert Damisch, Louis Marin,やはり哲学者のJeanne Coutagne-Wathier、フランス国立科学研究センター(Centre national de la recherche scientifique)のLiliane Brion-Guerryが参加しており、哲学者や美学者を中心とした思弁的セザンヌ論が展開されたと言えるでしょう。

1982年、グラネ美術館、セザンヌ展図録

1892年、グラネ美術館、シンポジウム報告書

 

②1995年11月29、30日、パリ、オルセー美術館で開催されたシンポジウム

 

これは、後に、論文集、Cézanne aujourd’huiの形で報告されました。

テーマと各テーマの発表者は以下の通りでした。

1.-La peinture, le lieu, l’iconographie(絵画、場所、図像学);Theodore Reff, Richard R.Brettell, Mary Tompkins Louise, Mary Louis Krumrine, Denis Coutagne

2.-Théorie et réception de l’oeuvre(作品論と受容);Yve-Alain Bois, Judith Wechsler, Richard Shiff, Jacques Le Rider, Isabelle Cahn, Jean-Paul Bouillon, Isabelle Monod-Fontaine.

このシンポジウムは、1895年画商ヴォラールが開催したセザンヌ初個展から100年を記念して、1995年9月25日から96年1月7日までパリ、グラン・パレで開催された「セザンヌ展」を機会に企画された国際シンポジウムで、セザンヌ研究の専門家、又は、フランス近代美術史研究者が中心メンバーでした。フランス人のみならず、米国等海外からも多数参加し、<競作>、<図像>、特に<受容>が、当時としては最もホットな、最大のテーマとなる他、この度の国立新美術館企画のセザンヌ展のテーマ、<場所>の問題が初めて登場しました。